身内向けに「なにも知らなくても楽しめる!『劇場版名探偵コナン ハロウィンの花嫁』! 楽しめるけれども原作ファンはここで泣いてしまうので聞いてくれ!」(タイトル)を書こうと思って1か月が経過してしまった。書く前に口頭で同じ話4回くらいしてしまった。吟遊詩人か。こういう話はスタートダッシュが肝要なのに、腰が重いのほんとだめ。
というわけで絶賛公開中、ハロウィンの花嫁の話をします。
皆見た? どう? 今からでも、今だからこそ見てほしい。このタイミングで公開になったのが奇跡なので、来年まで待たずにいてほしい。お願い。本当によかった。
よかったんですけれども、予告だけだと、ライト層にはとっつきづらそうなのもすごくわかる。要素てんこ盛りだし、ちょっと触れただけじゃ知らない人たくさん出てくるし、実際まわりからも予習するのしないの、「この人知らないけど大丈夫?」という話が多数出ていた。
結論から言うと、現時点で知らないことの予習復習はしなくていいです。
なにも知らなくても、ちゃんと大丈夫な映画になってたよ!!! えらいよ!!!!
ライト層が知っていると、見やすいかなという情報はこれだけ。
以上。(他の必要事項は全部冒頭で説明される)
そりゃあ、キャラクターについて、深く知っていたほうが気持ちが入るのはもちろんなんですけど、映画を観ることを目的に予習をすると、鑑賞体験が進研ゼミになってしまう可能性のほうが大きいので、それならむしろ映画をファーストコンタクトにしてもらったほうが全然いいと思います。(個人の感想です)(でもなにも知らないで見てくれた人もそう言ってたから、多分それでよかったと思う)
全然興味がない人に楽しんでもらえるかというと、それはわからないのですけれども、ちょっとでも興味があるなら、それだけで全然ハードルは高くないので、ぜひ観にいってくださると嬉しいです……。(広報?)
さて、ここからはネタバレありで「ここで爆泣き!ハロウィンの花嫁」の話をするぞ!(映画だけじゃなく原作のネタバレもするので、今更でも気にする人は気をつけてね)
あのね~~~~今回の映画、正直ものすごく不安だったわけですよ!
いや、勿論ものすごく期待もしていたんですけれど*4(だって松田と萩原が出るんだよ!?)(これがどれだけ大変なことかは過去にふせったーにまとめたのでこれを読んでほしい https://fusetter.com/tw/IU5nx2UZ )、ここ数年の安室インフレ(まさか今になって名探偵コナンを更にここまで高いところに跳ばせてくれた安室くんには本当に感謝しています)、謎の首輪爆弾、それでいて主軸は高木&佐藤!?更に過去の事件が絡む!? バンプ!? ってことはハードボイルドではなく爽やか系!? 2時間でやること多すぎない!? ねえこれ本当にちゃんとした映画になる!?
この「ちゃんと」っていうのは、映画としてきちんと面白く、更に『名探偵コナン』の映画になるかという意味で、たとえその名を冠してコナンのキャラクターたちが動いていたって、コナンくんが主役でなければ、そして彼が彼らしくあらねば、『名探偵コナン』である必要はないので、もう、期待が膨らむほどに不安もあったわけです。
いざ観たらもうね、杞憂も杞憂だったね。笑っちゃうね。こんなにも最高に『名探偵コナン』なことある????
歴代最高傑作ですよこんなもん。それでいて、他と比べて一番ということではなく、原作もアニメもこれまでの映画もすべてが繋がって積み上げてそれで届いた頂ですよ。ブラボー。ハラショー。
名探偵コナンでこんな泣くことあるか???というくらい爆泣きしてしまった。1回目より2回目のほうがさらに泣いたし、それから何度見ても泣く。えーーーーーん本当に良かった。
今回の映画、原作ファン爆泣きポイントのすべてが、「巨大ボールの上にスケボーで駆け上るコナンくんに向かって、歩美ちゃんが叫ぶ」シーンに集約されると思っていて(そして泣きつくしたと思ったら追い討ちをかけてくれる萩原)、ちょっとそれを語らせて頂けますでしょうか。させてください。
1.繰り返される「先に降りる」「下で待つ」こと
今作、「誰かを残して先に降りる」シーンがリフレインされます。
- 爆弾を解体する松田⇔降谷・伊達・諸伏(これ以前に松田・降谷とオレグもある)
- 爆弾と閉じこめられたコナン⇔少年探偵団
- ヘリに跳ぶ降谷⇔コナン(高木・佐藤)
で、これ、繰り返されるたびに、「上に残った」側の生命が強くなっていくんですよね。
そんでもっと言うと、これには映画の外にもう一つ、
0. 上層階で爆弾解体中に死んでしまった萩原⇔先に爆弾の解体を終えていた松田
の構図があるんですよ。(アニメ304話)
過去に松田は、下で萩原を待っていたけれども、目前で失ってしまっている。そして諸伏の「下で待ってるから」に「約束はできない」と返す。萩原は、一度止まったタイマーが蘇ったせいで死んでしまった。「絶対に戻る」とは言い切れない。
だけど、結果として、松田は過去の萩原の行動を思い出して生かされる。*5 先に降りた三人の、松田を信じる気持ちが昇華され、「上に残った」側の死が、繋がった生に変わる。
このシチュエーションが、次は今度はコナンと少年探偵団でリフレインされる。
【2】では、コナンが「必ず脱出するから、おまえたちには先に降りてろ」と、最初から強く生の意思を示すのだけれども(江戸川コナンは泣かない=諦めない!)*6、実際のところ、この時点ではまだ脱出方法は未定だったし、彼一人では助からなかった。少年探偵団が、彼を信じて先に降りていたからこそ、その身を受け止めて、皆で生き残ることができた。「先に降り」ていた側が、「上に残った」側へ、明確に生を与える。
そして、【3】では、降谷が「下で待っててくれ!」と叫んで、ヘリに向かって跳び移る。この台詞には「必ず生きて辿りつく」意思がこもっていて、コナンもそれをすぐに飲みこんで、疑いもせずに駆けていく。彼はああ言ったからには必ず降りてくる人間だし、「先に降りてできることをする」のが、彼を生かすことにも繋がるはずだから。こうして過去からの信頼が、連なって、繋がって、「上に残った」側が、結局一人でも生き残れるまでになっている。
この流れを経てのクライマックス。渋谷の高低差で上から下に迫ってくる、液体爆弾という「死」に立ち向かうため、皆の助けを借りたコナンが、これまでの逆「下から上」へと駆けのぼって、満月を背負い、こどもたちの声援を得て、サスペンダーのボタンを押す。
繰り返し補強された「上から下」が逆流して、乗り越えて、生と死も反転する構図になっている。
2.コナンが背負う『月光』
『名探偵コナン』を語るうえで外せないのが、「ピアノソナタ『月光』殺人事件」(コミックス7巻)。
これ、アニメ放送1000話記念としてリメイクされるくらいの話なんですが、大きな印象を残す理由の一つが「江戸川コナン(工藤新一)が唯一犯人を自殺させてしまった」象徴的な事件だから。
この事件の犯人は、過去に家族を殺されており、その復讐のために連続殺人を行った後、自害のため、建物に火を放つ。止めに来たコナンに向かって、自分の手はもう血みどろだと告げ、彼の小さな身体を外に投げ出し、自分だけが炎の中に残ってしまう。(その場に置かれたピアノで、コナンへの礼を奏でながら)
後に「名家連続変死事件」(コミックス15-16巻)で、「犯人を推理で追い詰めて、みすみす自殺させちまう探偵は…殺人者と変わらねーよ」「オレだってたった一人、たった一人だけ…」と回想され、彼の探偵としての生き方へ、大きな影響を与えたことが示唆されるこの事件の象徴が『月光』。
コナンのオタクは、常にこの月光殺人事件を胸中に抱えて生きているので、そもそもエレニカを止めるシーンで、シーン以上の感慨でもって爆泣きなんですよ。誰かが誰かの命を奪うことを止めるため、かつて及ばなかった心が届いた。そしてそれは、今の「江戸川コナン」だから届いた手。
月光殺人事件のとき、江戸川コナンが工藤新一のサイズだったら、もしかしたら犯人を止められたのかもしれないし、もしくは彼も逃げることができずに、犯人諸共死んでいたかもしれない。それは誰にもわからない。だけど、今、江戸川コナンは江戸川コナンとして、家族の復讐に燃えるエレニカを止めて、負の連鎖を断ち切った。あなたの家族は殺される理由などなかった。ただ正しいことをしただけだ。その思いを受け止めて。
エレニカがコナンに自分の息子を重ねていたことを想うと、工藤新一が工藤新一のままだったら、もしかすると止められていなかったかもしれない。様々な経験を経た「江戸川コナン」だったから、彼女を抱きしめることができた。積み重なった過去が、「今」に繋がった。
という気持ちで既に泣いているのに、ここからの流れで液体爆弾のシーンにつながって、あの満月を、月の光を背負って、更に大きな悲劇を断ち切るコナンを見ることになってしまう。爆泣き。どこまで意図された演出なのかもわからないまま、ファンは勝手に文脈を重ねて爆泣き。
3.「君は一体何者なんだ」へのアンサー
そして月の光を背負う直前、エレニカの「何者なんだ、あの子は……!?」という戸惑いに被さる、歩美ちゃんの「コナンくーん!!」の声。既にこれだけ泣いてるのに更に泣かせる!!? 嗚咽出るかと思った。
追い詰められた犯人からの「お前は一体何者だ!?」に対する「江戸川コナン、探偵さ!」の名乗りは、お約束になりつつありますが、過去にたった一人だけ、「江戸川コナン」ではなく「工藤新一」と、正体を明かされた人がいます。
彼女は、妹とともに黒の組織を抜け出そうとして罪を犯し、逃すつもりのなかったジンに銃で撃たれる。やがて駆けつけたコナンに「あ、あなたはいったい!?」と問いかけて、返ってきたのが「江戸川…いや…工藤新一…探偵さ!!」。そして彼女は、最後の願いをコナン=新一に託して、その目の前で息を引き取ってしまう。(コミックス2巻)
これを前提に、なんですけれども。
今回の映画で、コナンに素性を尋ねる台詞は3回出てきて、1回目が降谷(安室)、2回目がプラーミャ、3回目がエレニカ。
まず1回目、降谷とのやりとりについて。過去に、江戸川コナンを「江戸川コナン」だと認識した上で、「君は何者なんだ」という問いを発した人間は、降谷の他にも何人かいて、実はそのうちの一人が、今作メインキャラクターの一人でもある高木刑事。
同じく今作のキーパーソン、松田が初登場したまさにその回、「揺れる警視庁 1200万人の人質」(コミックス36-37巻)において、高木はコナンとともに爆弾が仕掛けられたエレベーターに閉じ込められて、絶体絶命の状況の中、「君はいったい…何者なんだい?」と問いかける。
対するコナンの答えは「知りたいのなら教えてあげるよ…あの世でね…」。
台詞に青山節が炸裂しているけれども、つまりコナンの”生き残る相手には正体を名乗らないし、自分も死なないし、死なせない”という意思が示されていて、それが降谷に対してもリフレインされるんですね。コナンは降谷の強い問い(電話を叩きつける)を、あっさりかわして答えない。
江戸川コナン=工藤新一の行動姿勢は、とにかく「相手の素性にかかわらず、今ある命を失わせない」「人を助ける理由に論理的な思考は存在しない」「絶対に諦めない」が軸になっていて、間接的にそれが示されるシーンでもある。
(なお、「揺れる警視庁~」のアニメ版で、コナンが自分と入れ替えにエレベーターから救出した女の子の名前は「アケミ」ちゃんになっていたりする。漢字は「朱美」なので異なるのだけれど)
次に2回目、プラーミャの問い。これは先に述べた犯人とのやりとりで、コナンはシンプルに「江戸川コナン、探偵さ!」と答えている。(余談だけど、プラーミャ相手に「つか」って言うコナン=工藤新一の小さじ一杯のガラの悪さほんと好き)
ここでお約束を消化したうえでの3回目。皆の力を借りてサスペンダーを固定し、「おまえら、サンキューな!」と礼を言いながら、ボールの上へと向かうコナン。思わずエレニカが発した「何者なんだ、あの子は……!?」に呼応するような、歩美ちゃんの「コナンくーん!」の声。
そう、コナンくんなんですよ。(語彙の消失)
江戸川コナンは、本当は工藤新一で、高校生で、探偵なんだけれども。
ここで皆に助けを求めて、繋ぎ合わせて、起こりうる悲劇を止めようと立ち向かう「彼」のかっこよさは、「探偵」であるとか「高校生」であるとか「小学生」であるとかに関わらず、ただただその勇気と真摯さに集約されていて。
どの属性を背負うのでもなく、ありのままそこにいる、一人の少年そのものであるということが、体現されているような気がして。
彼とその周囲の人々が、ヒーロー・ヒロインたりえるのは、その核となっているのは、実は頭が切れるとか、強いとか、テクニックがあるとか、そういうことではなくて、誰でも持ちうる善性や勇気や優しさを、当たり前に人に向けることができること、それを何度も伝えてくれることだと、改めてそういうことが思われて。(今回登場する警察官たち一人一人の活躍、小さなメモを見逃さず拾って渡す哀、哀を庇う小五郎、火を見てすぐに消そうとする蘭、困っている人を助けたい少年探偵団、復讐を止めて手を貸してくれた彼ら、そして思い入れのある数々の原作のシーンが、ここでぶわっとフラッシュバックする)
最初から今までの総ての繋がりと連なりが押し寄せてきて、「私は今『名探偵コナン』を全力で突きつけられている……!!!!」という感情で、めちゃくちゃに泣いてしまうのであった。
もうほんと、このシーンの文脈の乗り方(ファンが勝手に重ねてしまうのも含めて)、とんでもなさすぎる。
4.萩原研二とかいうオーバーキラー
シンプルにずるくない?
爆弾止めて、爆泣きして、は~やれやれと思ってたらこれですよ。
私は19年も萩原のことを想い続けていたのに、この映画あまりに身が詰まりすぎているので、ここに辿り着くころには中盤に示唆された萩原の伏線を忘れているんですよね。(それは君がちょっとあほなだけでは?)
もうマジでほんと超ズルいんですけど、上記のような状態で頭殴られているので感情に言語がついてこない。我々はなにを見せられているんだ。純度1000%の萩原研二がそこにいる。うわーーーーーーーーーーーーー。”想いは受け継がれる”。うわーーーーーーーーーー。
で、でね、このシーンなんですけども、まず今回の映画、ここまでノー工藤新一なんですよ。アバンタイトルの説明以外、「工藤新一」の姿が一切出てこない。これ、かなり異例なんですね。生身の新一が出てくるのはそもそもイレギュラーにしても、ピンチになったときや、誰か(主に蘭)に想いを伝える際、コナンに被さる形で、心象風景としての新一の姿が描かれることが多いんですが、今回それさえ登場しない。
そこに初めて、「工藤新一(小学生の姿)」が出てくるんですよ。天才?
それでもって、萩原が生きていたのは7年前(工藤新一くんは当時10歳前後)。ただし現在の江戸川コナンは小学一年生。自称6歳。
「江戸川コナン」と萩原研二は、同じ時代を生きたはずのない人間。
なのに、ラストシーンで空を見上げた降谷は、コナンの正体を知らずとも、彼の語る「萩原って人に似てた」人物を、きっと萩原本人だと確信している。
これほんと匙加減が絶妙で、回想シーンにはまず萩原がいて、あとから松田と諸伏と伊達がやってきて、降谷の姿だけが描かれていないんですよね。いたのかもしれないし、たまたまいなかったのかもしれない。曖昧さを残しつつ、余韻と示唆を残して終わるの、素直に半端なく作劇が巧い。また泣く。もうずっと泣いてる。このあとクロノスタシスでも泣くし、渋谷の街で働く消防や警察の皆さんの姿でも泣くし(コナンの劇場版は常に名もなき大人たちがかっこいいんだ)、そもそも解説しなくても泣けるシーンなので省略したけど、佐藤高木の残業シーンでも泣いてるし(編集と劇伴が良すぎる)、なんなら高木の背を押す白鳥でもやばかったし、初っ端アバンタイトルでメインテーマのアレンジが良すぎて泣いてる。(ガバガバ)
書き出すとキリがないんだけれども、そういうわけで本当に良かったハロウィンの花嫁。まだまだ絶賛公開中です。私たちが大好きな『名探偵コナン』が詰まっています。ぜひに。
あとさーーー松田が爆弾止めるとき、最後に青のコード切ってるの、意図された演出かどうかわからないけど、「コナンの世界の爆弾は赤を残して青で止まる~!!!」*7ってすごいテンション上がっちゃうよね。
それから降谷は信頼できる同期をたくさん失ってしまったけれど、今だって優秀な部下に支えられていてけして一人じゃないんだと感じられるのもすごくよかった。風見かっこよかったし、あたりまえだけどちゃんと防護服を着て作業した形跡がある……。えらい……。(萩原……)
本当にキリがないのでこのへんで無理やり終わるぞ! これでやっとシン・ウルトラマンを観に行けるぞ! よし!!
【追記】
【少年サンデー応募者全員サービス[#名探偵コナン #ハロウィンの花嫁 #青山剛昌 先生描き下ろし複製原画」】
— 【公式】少年サンデー編集部 (@shonen_sunday) 2022年5月17日
警察学校同期組と新一・蘭が登場する名シーンを青山剛昌先生が描き下ろし!
詳しい応募方法は、少年サンデー25号でチェック!
締切:6/22
額外寸:横348mm×縦260mmhttps://t.co/SgHEDE7ZXj pic.twitter.com/8z1pd8lOKa
これだけ熱弁ふるった直後にいきなり作品外から添削入るとかあります????
青山先生いっつもそう……常に我々の一つ上をお出しされる……。
*1:ジャンルとしてはミステリーではなく殺人ラブコメを自称している。
*2:元々サッカーを特技としてもいる。
*3:刑事だった父親や、想い人が殉職している。
*4:自覚をしていなかったのだが相当楽しみにしていたらしく、昨年特報を見てからというもの、寝過ごしたりチケットを取り損ねたりして初日鑑賞を逃すという悪夢を覚えているだけで7回も見た。
*5:そしてこれはコミックス警察学校編で萩原が松田の言動を思い出して助かっているのと対になっている……。ずるい……。
*6:なので過去の諦めたっぽい某作とか、泣いたっぽい某作はファンの中で評価が分かれる。
*7:劇場版第1作『時計じかけの摩天楼』を見てください。